患者(当時50代後半,男性)は,平成14年7月24日,甲病院(総合病院)のA医師(内科)から,食道癌の宣告を受けた。患者は,A医師らから,食道癌の治療法について説明を受けるとともに手術を勧められたが,化学放射線療法を希望し,A医師から被告病院(公立病院)の担当医師(消化器外科部長)を紹介してもらい,同医師から,セカンドオピニオンを聞くこととなった。
担当医師は,同年8月6日,患者とその家族に,化学放射線療法は,切除不能食道癌か,切除再建手術が行えない症例に対して行われている治療法であり,一部施設からは手術成績にほぼ匹敵する治療成績の報告がなされ最近注目されているものの,未だ症例数も少なく放射線照射後の遠隔期の合併症についての検討や他施設でのデータはほとんどないこと,患者には軽度の肺気腫があり,放射線による肺機能障害も予想されることを説明し,表在癌で術前検査では腹部に1つのリンパ節転移を認めるのみなので,手術で根治切除が可能であると判断されることを説明した。担当医師は,手術が適当であると考えられることを説明するとともに,手術を行うのであれば,患者に肺結核の既往及び軽度の肺気腫があり軽度の閉塞性の呼吸機能低下が認められるため,開胸開腹手術よりも術後の呼吸機能の低下が少なく再発のリスクも低い内視鏡下切除術が適当であることを説明したが,内視鏡下切除術の開胸開腹術等と比較した短所等については説明しなかった。
患者は,被告病院において,内視鏡下食道切除術を受けることを決め,同手術の予約を行った。同年9月6日,担当医師らは,患者とその家族に対して,手術の具体的な術式,合併症として肺炎,縫合不全及び胃管壊死等が考えられ,命にかかわることもあり得ること,気管切開を必要とする場合があること等を説明し,患者の同意を得た。
同月9日,担当医師らは,患者に対し,胸腔鏡・腹腔鏡下食道亜全摘手術を実施した。
同月17日,患者に,縫合不全に起因すると考えられる胃管気管瘻が発見されたことから担当医師らは,患者の家族に対して,挙上胃管と食道との吻合部と気管に交通があるため気道内への胆汁の流れ込みがあり,放置すると肺炎が必発なので手術が必要であること及びその術式について説明した後,挙上胃管切除気道修復術を実施したが,患者は,同年10月20日に死亡した。
患者の家族(妻及び子ら)が,被告病院を開設する地方公共団体に対し,損害賠償請求訴訟を提起した
↑ 判決 請求棄却
食道癌の手術後の合併症で命を落とす事があり、消化器外科の手術の中ではもっとも大きな手術の1つです。「胃管気管瘻孔」とは気管のそばに胃管を吊り上げた時に、血流が悪くてたべものの通り道と空気の通り道が交通してしまい、消化液が肺に入っていくという危険な状況です。再手術をしても完全にふさがらないこともあり、最終的には肺炎で命を落とす結末に。起こしたくない合併症の1つです。